「来いルパン」
ルパンを押し倒した五右ェ門がドスのきいた声で言い放つ。
相棒である屈強の男二人の恐ろしさを、改めて知る。
「許して五右ェ門ちゃん。お願い・・・サイコロのこと謝るってば。やだっ、何するの・・・・!」
「拙者に任せておれ。お主は言うとおりにしておれば良いのだ」
「やあ・・・」
ずるずると部屋の奥に引きずられる。
「大丈夫かな、あいつ・・・」
次元は心配げに二人を見送る。
やがてガタガタと音がして、壁越しから二人の会話が聞こえてきた。
「やっ、痛いっ!・・・だめ・・・あ!・・・はっ・・・・・やさしくして五右ェ門・・・」
「くっ・・・じき済む。我慢しろ」
「あっ、あっ、やっ、はぁ・・・やめ・・・あ・・あああ〜〜〜〜!!」
次元の身体がわなわな震えだした。
まさか、まさかとは思うが五右ェ門の野郎っ・・・!
「五右ェ門!!てめえっ約束がちが・・・!!」
ドアノブをガチャガチャと動かす。
鍵が掛かってる?!
帽子の下が青ざめた。
「ルパ―――――ン!!」
次元の手が腰のマグナムに伸び、弾丸がノブを打ち砕いた。
ドアに体当たりし、中を伺う。
そこに居たのは。
ルパンを後ろから抱え上げている五右ェ門と、帯を巻かれ、顔を紅潮させたルパンの苦しげな表情。
「はあ・・・はっ・・・」
かすかに漏れるルパンの吐息。
余りの艶めきに次元は驚き、すくんだまま咽が鳴った。
「くぐうっ・・・!」
五右ェ門が最後に身体をのけぞらし、ぎゅっと帯を締め上げた。
胸元も上下に弾む。
「はあっ。済んだぞ、ルパン」
「もう・・・いいの?」
ぐったりしたルパンが涙目で五右ェ門を横でそっと見る。
「どうだ。拙者の腕前も中々のものだろう」
満足げにルパンを見つめ、微笑みかける。
よろめくルパンの肩に優しく手を置き、五右ェ門は姿見の前へと導く。
おうとつのないスレンダーな身体は妖しいほどその着物が似合った。
薄桃色の頬と短い黒髪。
雪の色を映すきゃしゃな手足・指先。
燃える朱に鮮やかに纏われた金銀の帯。
「うん・・・」
己の意外な姿に照れくさそうにルパンは息を漏らした。
西洋人との混血でもあるルパンにとって、着物が似合うという事実は感動的でもあったのかもしれない。
嬉しそうに鏡を見続けるルパンに、次元も五右ェ門もほほえましい気持ちになりかけたその時。
バン!
玄関のドアが叩かれた。
痺れを切らした着物姿の不二子がズカズカと部屋に入ってくる。
「ちょっと!メール返信も、電話連絡もしないでいつまで待たせる気なのよ!
どっちがエスコートしてくれるわけ、ルパンか五右ェモ・・・」
そこまで言いかけて不二子は口をつぐんだ。
自分が指名したはずの男二人。
ルパンは女の着物を着て鏡に見とれ、五右ェ門はそのルパンの肩に手を置き寄り添っている。
四人は固まったまま見つめあった。
はっ。
我に返ったルパン。
冷汗を浮かべ、まくし立てる。
「え、あ、ふ、不二子ちゃん!?
・・・あ、いやそのね、なんつ――か、これ、五右ェ門ちゃんが買ってきてくれた着物なんだけっども・・・ええとぉ、・・・・いわゆる一つのコスプレ?なあ―――んちゃって、あははは・・・・」
かさつく笑い声。
不二子はじっとルパンの着物姿を凝視していた。
大和撫子のように清楚な身体のルパン。
グラマラスな肉体を堅い着物の中にぎゅうぎゅうに押しつぶし、デコボコとした感のいなめない不二子。
明らかにそこには女としての勝負の炎が揺らめいていた。
「ふ――ん。五右ェ門がねぇ・・・。可愛いじゃないのルパン。いっそ五右ェ門とデートしてきたら?お似合いよあなた達」
クールな表情を崩さない時、冗談めかしていても不二子は本気だ。
「ま、待ってよ、不二子ちゃん」
「男はあなた達だけじゃないのよ。せいぜい男同士楽しんでくればいいわ。じゃね、可愛い日本人形さん」
来た時よりも大きく、不二子はドアを力任せに閉じた。
「あ――あ。不二子のプライドを傷つけちまったな。どうするんだ、ルパン」
次元が問いかける。
呆然としたルパンの顔。
「さて、準備は出来たし、初詣と参ろう。拙者、その前に日の出も見ておきたい」
五右ェ門が促す。
呆然としたままのルパンを次元と五右ェ門は車に引っ張ってゆく。
暴れようにもしっかりと帯にくるまれたルパンは身動きが出来ない。
それこそが二人の策略である事にルパンは未だ気付いてなかった。
続
調子に乗ってきたので、忘れないうちこのまま一気に終わらせる!この話は初め健全で『紫式部の着物を狙うルパンVS不二子』というアイデアで考えていたんだけど、どうしてこうなってしまったのだろう・・・(遠い目) 2005.1.11
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