3      愛のフォルテシモ3
 
 
 
 
機関銃が乱射される。ガラスが割れる。
 
店内の客は悲鳴をあげながら撃たれ、出口に殺到した。
 
次元はルパンを床に押し倒し、自分の体でもってその背中に覆いかぶさった。
 
罵声と銃声が混じりあう。投げ出されるテーブルや椅子。
 
 
「ナザロフだ!」
 
 
ルパンを押し倒したまま次元はヘリの脇についたイニシャルを辿った。
 
ルパンが呆れた表情で次元と顔を見合わせた。
 
 
「あいつ脱獄してやがったのか。警察は何やってんだ。三が日か?」
 
「ドロボウの言うセリフじゃねえな」
 
 
床に寝そべったまま、二人して呑気な会話を交わす。
 
再び、乱射される銃声。
 
次元はルパンの頭を抑えていたが、音が途絶えると倒れたテーブルの後ろに滑り込みマグナムを放った。
 
 
「うわっ」
 
 
割れた窓ガラスから侵入した男が不意をつかれて前かがみに崩れ落ちる。
 
ヘリからは梯子ロープがゆらゆらと垂れ下がっていた。
 
風に吹かれ月光に煌めくその上を蟻の様に蠢きながら男達が伝って降りてくる。
 
天空に開かれた穴から、男達は次々とレストラン内へと侵入した。
 
次元は辺りを見回した。自分達のいる場所から一番近い脱出口は何処か。
 
瞬時にカウンターの先に開いたドアを捉えた。階段が見える。
 
どうやら従業員用の裏口通路らしい。
 
 
 
 
 
「1・・・2・・・」
 
 
 
 
 
次元は裏口に通じる脱出線ルートをポイントごとに数えると弾をこめ直した。
 
テーブル。その次は曲がり角の壁、カウンター。再びテーブル。
 
その向こうに通路階段。
 
 
 
 
「全部で4だ。急げ、ルパン」
 
 
 
 
次元は一喝するとマグナムを発砲する。
 
それを合図にマシンガンの弾が激しく店内を舞った。
 
次元は口に次の弾を銜えながらマグナムの発射音を繰り出し続ける。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ルパンは長いドレスの裾を両手で掴み次元が確保した脱出ルートを走った。
 
転がる酒ボトルやグラスの破片で高いヒールの足を取られる。
 
ルビーを入れたバックが邪魔でワルサーを抜くタイミングがつかめない。
 
 
「くそお」
 
 
ルパンはもどかしげにロングドレスの裾を引っ張る。
 
裾はガラスの破片でもって破れ、こぼれた酒で大きなシミを作った。
 
サーチライトの光が更に眩しく増える。
 
 
「ルパン達を探せ!だが、殺すな。双子のルビーのありかをつきとめるんだ」
 
 
空に浮かぶヘリから男の声が飛んだ。
 
そのまま上昇するとホテルの周りを旋回し始める。
 
ルパンと次元は最後のポイントのテーブルから、息を殺して裏通路の出入り口へ飛び込んだ。
 
裏階段を下りれば外に出られるはずだ。
 
再び走り出した通路の途中でルパンは別の小部屋があるのに気づく。
 
垂れ下がったカーテンを開くとそこはロッカールームになっていた。
 
従業員用の制服や靴の箱がハンガーや戸棚に収まっている。
 
 
「おい、ルパン」
 
 
次元の呼び止めるのもきかずルパンは部屋に入るとドレスとハイヒールを脱ぎ捨てた。
 
白のワイシャツにベージュのジャケットとズボンをひっつかむ。
 
積まれた戸棚の靴の箱を乱暴にひっくり返し、サイズを確かめるとそれを履いた。
 
ハンドバックの中身をぶちまける。
 
口紅。コンパクト。香水。そして偽造カードにワルサー、双子のルビー。
 
ルパンは双子のルビーの片割れをジャケットのポケットにつっこみ、ワルサーを腰のベルトに引っ掛ける。
 
袖口で口紅をぬぐう。
 
戻って来た相棒の姿に次元はいう。
 
 
「やっぱ、そっちの格好の方が見てて落ち着くな」
 
「ぬかせ」
 
 
軽いやり取りを終える間も無く背後から掛かる怒声。
 
 
「あそこだ」
 
「いたぞ」
 
 
先程とはうって変わった素早い動きで腰をかがめて駆けると、ルパンはワルサーを片手で構え引き金を引く。
 
走りこんでくるナザロフの手下達を次々に撃ち捉える。
 
次元はその隣で携帯を取り出す。
 
 
「不二子か。何もいわず、ヘリでRホテルまで迎えに来い。五右ェ門とデート中?丁度いい、侍も連れて来い。このままだと俺とルパンどころか双子のルビーまでこっぱ微塵になるぞ。それでもいいのか」
 
 
二人は裏口から外へ出た。
 
暗い夜空が垂れ込める底辺に、広がる純白の雪景色。
 
ここから次元の停めてあるジープの場所まで25メートル。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
周りの茂みからヘリは交互にホテルを取り囲み、白い大地に二点の人影を見る。
 
無線が飛ぶ。
 
 
『ナザロフだ。サツが来ないうちに早く捕らえろ』
 
「了解、ボス。おい、あれがルパンと相棒の次元だ。見失うな」
 
 
ヘリは大きく回転するとサーチライトを眼下に照らし始めた。
 
次第に滑空を低くする。
 
耳をつんざくプロペラの旋回音。
 
ヘリからの風圧と雪の厚みがジープに歩みよる足を押しとどまらせる。
 
ヘリが向きを変え、二人の目前にウインドウを移した。
 
 
「次元!」
 
「ルパン!」
 
 
それを合図に二人の腕が交差すると、同時にワルサーとマグナムが火を吹いた。
 
操縦席のウインドウの同じ場所に銃弾が撃ち込まれる。
 
ヘリは空中から音を立てて大地に崩れた。
 
次元が苦虫を食いつぶしたような顔でぶつくさ言う。
 
 
「お前とのデートはいつもこうだ」
 
「文句いうな」
 
 
数機のヘリが近づく。
 
ドアが開き、縄梯子が落とされる。
 
連射されるワルサー。
 
次元は崖の側面に根を生やした一本の枯れ木を目指す。
 
ジープまで、あと15メートル。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ジープの側まで辿りついた時、今までとは違う小型ヘリの音が遠くから二人の耳に届いた。
 
翳む雲間からそれは徐々に大きくなっていく。
 
 
「ふーーじこちゃんだ!」
 
「やっと来やがった」
 
 
敵のヘリからは依然、男達が数人梯子から降りてくる。
 
 
「しつこい野郎だ!」
 
 
次元のマグナムが男達を弾き飛ばした瞬間、ヘリの機関銃が鳴った。
 
 
「ぐあっ」
 
 
次元が腕を押さえる。真白い雪の上に深紅の血が散った。
 
 
「次元、大丈夫か」
 
 
ルパンが駆け寄る。
 
次元はハッとした。
 
 
「あぶねえルパン!」
 
 
銃弾の撃ち込まれた雪が崖から谷底へと滑る。
 
駆け出していたルパンは足をすくわれる。
 
 
「わああ!」
 
 
次元は咄嗟にその腕を伸ばす。
 
ルパンは大きな次元の手をかろうじて捕らえる。
 
ルパンは谷底を遥か下に空中でぶら下がった。
 
 
「ぐぐ・・・」
 
 
次元の腕から血が噴出してきた。指の感覚がなくなる。
 
後方からゆっくり、雪を踏みしめる音が近づいてきた。
 
 
「出してもらおうか。双子のルビーだ」
 
 
立ち止まった男はにやりと笑うと次元にライフルを構える。
 
ルパンはあいている片方の指先で、枯れ木が側面に這わした頼りない根を掴む。
 
枯れた根は湿り気を帯びた音を立てながらひび割れていく。
 
 
「次元、手を離せ、撃たれる!」
 
 
ルパンが叫ぶが次元は聞こうとしない。
 
男を睨みつけたまま、なおもルパンを引き上げようと力をこめる。
 
再び銃声が轟いた。
 
弾が次元の伏せた胸元近くに刺さった。
 
その瞬間、雪で湿った土はバラバラの塊となってはじけた。
 
ふいに支えられるべき地面を失った次元は前のめりに倒れる。
 
その拍子に二人の繋がれた手は引きずられるように途切れた。
 
ルパンが叫びをあげた。次元を見つめながら谷底に落ちてゆく。
 
 
「ルパン!」
 
 
次元は崖から身を乗り出す。男達は軽い足取りで次元を取り囲んだ。
 
その背後に長髪の侍がふわりと降り立つ。
 
男の一人がその気配に振り向いた時、侍は冷たい剣光を月に閃かせた。
 
一振りで男達は雪にうつ伏せた。
 
 
「ルパーーーン!」
 
 
次元は尚も叫び続ける。
 
 
「よせ次元。お主まで落ちる」
 
 
五右ェ門が走り寄った。
 
次元の身体をつかむと引き戻そうとする。
 
 
「馬鹿野郎!離せ、ルパンが!」
 
 
暗い谷底。最早、何も見えない。
 
 
『双子のルビーはルパンが持っているかもしれん。探せ』
 
 
無線に従い、ヘリの何機かは空を立ち去り始めた。
 
 
「ルパン!ルパンッ。いるか、返事しろーーーっ」
 
 
なおも谷底に半身になって叫び続ける次元を、五右ェ門は引きずらんばかりに杭止めていた。
 
 
「お主の出血も酷い。とにかく、此処は立ち去るのが先だ。不二子!」
 
 
五右ェ門が呼ぶと、一機の小型ヘリが辺りをサーチ・ライトで照らしながら旋回してきた。
 
大地に降り立とうとする。
 
そこをめがけ、新たにヘリから降りた男達は一斉に銃口を向けた。
 
うなりをあげる銃弾。
 
不二子は敵のヘリの上空に回りこむと、助手席からマシンガンを取り出し、ドアを開けた瞬間に大地に乱射した。
 
大型ヘリの陰に目標を見失い、射撃を止めた男達はバタバタと倒れた。
 
 
「五右ェ門急いで」
 
 
不二子のヘリはジープの側に着地した。
 
ヘリのボディが僅かな間盾になってくれる。
 
五右ェ門は次元を押し込むように後部座席に乗せる。
 
不二子がハンドルを切るとヘリは上昇を始めた。
 
無線連絡を受けた残りのヘリが集合し、後を追う。
 
暗がりに尖った森の木が高くそびえて天を貫く。
 
不二子がスピードをあげ、巧みにその僅かな木々の隙間を潜り抜けていく。
 
やがて後方のプロペラ音は微かな銃撃音と共に次第に闇に消えていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
次元は眼下に小さくなる谷底を見つめていたが、五右ェ門に向き直るといきなり殴りかかった。
 
だが五右ェ門の手は、次元の怪我を気遣いつつ拳を握り押し戻した。
 
次元は侍を睨みつけていたが、やがて帽子のツバで目を伏せると、振り絞るように唸った。
 
 
「貴様。ルパンにもし何かあったら只じゃすまねえ!」
 
 
運転席の不二子がそっと次元を見やる。
 
続いて五右ェ門と顔を見合わせると、侍はゆっくりと首を振った。
 
次元はうつむいたまま、背中を震わせていた。
 
 
「ルパン」
 
 
次元の手の中には双子のルビーの片割れが青い涙を溜めて残った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
実はここまでが「1」の範囲だったのです。長いっすね。ゴエフジは次ル恋人設定の場合、こちらも恋人設定なので入れてます。私は次ルとペアの方が五不五書きやすいみたいだなあ。しかし、どうも今アクションが書きたい気分みたいで今回の話もアクションシーンばっかりであまり萌えないような。どっちかというと微健全な「相棒萌え」してる気がする。旧ルパン3話で阿吽の呼吸で銃をクロスさせる次ルに萌えたんでパクリました。
 
2006/01/04
 

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